モーツァルト
モーツァルトはビール好きだった。ウィーンの富裕な商人で、フリーメイスンの同志でもあった人に宛てた手紙では、たびたび借金を頼んだりしているが、「あなたのところでビールが無くなりかけていると知っていたら、あえて横取りしようとなんかしなかったでしょう。…またビールがお手に入りましたら、ほんのひと樽ばかり分けて下さいませんか-ご存じのように、大好きなものですから」(柴田治三郎編訳『モーツァルトの手紙』)とビールもねだっている。最後のプラハ旅行からウィーンに帰って二ヶ月後の寒い日、モーツァルトは行きつけの「金の蛇」というビアホールで、ふだんはビールを飲むのに、この日はワインを頼み、しかも手をつけない。なにかとモーツァルトの世話を焼いていた店の人が、心配そうに言った。「ひどくお加減がわるそうです、先生。プラーハへ行っていらしったそうですが、ボヘミアの空気が、先生にはよくなかったのでしょう。そんなご様子です。ワインをお飲みですが、それは結構です。多分ボヘミアでビールを沢山お飲みになって、胃をこわされたのでしょう。なに、大したことにはなりません、先生」この話から当時のボヘミア(チェコ西部)がビールで有名だったことがうかがえるが、それはともかく、モーツァルトはこの日から病の床につき、二週間後の十二月五日に三十五歳の生涯を閉じたのだった死因には毒殺説までふくめて百以上の説があるそうだ。少なくともビールの飲みすぎでなかったことを祈りたい。
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